前立腺炎について考えてみる

泌尿器科医院を開業した時、ある後輩から、「開業したら、外来ばかりするんですよね。慢性前立腺炎の患者もいっぱいきますよね。それはかなわないですよね。」といわれたことがあります。「どうして?」と尋ねると、「前立腺炎ってこころの病気じゃないですか。話は長いし、よくならないし。」と。

また別の意見としては、「前立腺炎は感染症だから、まず2週間は抗生剤を飲んでもらって、よくなるものはよくなるし、そうでないのはなにをやってもダメ」というものもあります。

ひたすら前立腺マッサージをする医師、マッサージによって得られた検体にどんな菌がまじっているかを調べる医師もいます。

確かに感染による前立腺炎という病気もありますが、私の印象としては多くない、と思っています。私は、大病院で勤務されている医師の方々よりかなり多い数の前立腺炎を診ていて、最初に抗生剤を使わず、前立腺マッサージもせずに対応していますが、6~7割の人がよくなったといいます。残りの人のなかにも、症状がよくなって、2度目の受診がないという例も相当数あると考えられるからです。(他のことで再受診した時に尋ねてみたりした経験から)

最近、いろいろな腫瘍疾患について診療ガイドラインというものができていますが、前立腺炎についてはまだそれがありません。これはまだ疾患概念が十分に定まっていないことと、治療法が確立されていないためと思われます。前立腺癌、前立腺肥大症などはガイドラインがあります。検索をかけると5000ぐらいのガイドラインがでてきますが。

一方でインターネットの上では前立腺炎に関するカリスマともいえる医師のサイトがいくつかみられます。彼らの意見には賛同できる部分も多いのですが、中には他の泌尿器科医にとっては受け入れがたいような、あまりにも特殊な意見・治療法も見受けられます。インターネットの上で、そのような記事が目立ってしまうのはちょっと良くないな、という思いがあります。

私は勤務医生活も長く、大きな病院でも小さな病院でも仕事をしたことがあり、診療所から大学までいろいろなところで泌尿器科医として仕事をしてきました。前立腺炎は研究の専門とは離れていましたが、私は手術より外来が好きだったので、前立腺炎への長い訴えに付き合い、処方を工夫するのも好きでした。これから少しずつ綴っていく内容は、画期的なものではありません。ただ、なかなかよくならない前立腺炎の方に、多少なりとも参考になるのではとは思います。