頻尿(おしっこが近い)で困ったら

頻尿について

 この記事は、開院の直後(2006年)に、「頻尿特集」と称して書いていた一連の記事を、ホームページのリニューアル(2020年)の際にまとめ直したものです。

 その後も、頻尿に関係するたくさんの記事を執筆しています。以下のリンクから一覧が表示されますので、よろしければそちらもご覧ください。

膀胱の緊張をゆるめる薬

 (2006年の)6月に新しい頻尿の治療薬が2種類発売されました。ひとくちに頻尿といってもさまざまな要素があり、たとえば膀胱炎があったり、膀胱に結石があったりすればその治療が優先されるべきことは言うまでもありません。そういう特別の要素がない場合も頻尿にはさまざまな原因があり、それが複数からみあっていることも多いのです。

 今回発売された新薬も含め主な頻尿の治療薬は膀胱の過度の緊張をゆるめ、「まったなし」「間に合わない」という症状を緩和する作用があります。気をつけなければいけないのは、おしっこがでにくくとも、「まったなし」「間に合わない」という症状はよく合併し、そういう場合にこれらの膀胱の緊張を緩める薬を使うとおしっこが出にくくなってしまうことがありうるということです。

 またその他の副作用として便秘気味になったり、口や目が乾いたりすることもあります。副作用というのは全員に起こるわけではありませんが、薬を出している限りは毎回問診でこうした症状をチェックすると同時にときどきおしっこがでにくくなっていないか、残尿が増えていないかを(超音波で)調べる必要があります。

 ポラキス、バップフォー、ベシケア(新薬)、デトルシトール(新薬)などを内服されている方はご自分でも(残尿以外の)副作用をチェックしてみてください。

頻尿のその他の症状は?

 おしっこが近いというのは非常に多い症状ですが、その状態は人により微妙に異なります。治療法もそれに応じて考えなければなりません。たとえば、

1.おしっこが近くてでにくい → 前立腺肥大症などの合併? 出やすくする薬の併用
2.おしっこが近くて不快 → 慢性前立腺炎? 浮腫、うっ血をとる生薬の併用
3.トイレにいきたくなったら待ったなし、漏れそう → 狭義の過活動膀胱(昔でいう不安定膀胱)
4.おしっこが近く、排尿痛あり → 膀胱炎などの炎症?感染の治療や消炎剤
5.夜に近い → 抗利尿ホルモン異常、前立腺肥大症、夜間多尿、睡眠障害などなど

 単純に図式化できないほどさまざまなパターンが考えられ、適切に対処していかないと帰って悪くなることも考えられます。

 頻尿の治療を受ける場合には付随するさまざまな症状を医師に伝え、治療(薬)によってそれがどう変化したか、いまの状態はよくなったのか、少し改善されたのか、かわらないのか、悪くなったのかを遠慮なく話すことが大切です。

 薬により便通が変化したり、のどや目のかわき、ふらつき、めまいなどがみられることも(ときおり)みられます。

夜間頻尿について

 夜寝ている間にトイレに行く回数が多いと、睡眠も妨げられ、冬は寒くなかなかつらいものです。

 正常では寝る前に行って、朝起きてトイレに行くまで一度もいかないものですが、さまざまな理由により3回以上おきてトイレに行く、もしくは2回以下でも起きてトイレに行くのが近いという症状がつらくなれば治療の対象になります。

 この場合、原因を的確にとらえることがとても大切です。
1.前立腺肥大の初期症状としての刺激症状
2.老化による抗利尿ホルモン(夜中のおしっこを減らすホルモン)の変動
3.睡眠のリズムの変化(眠りの浅さによるもの)
4.狭い意味での過活動膀胱(不安定膀胱)
5.高度な前立腺肥大などによる残尿の増加
6.水分摂取過多による夜間多尿

これらの原因がひとつとは限らず、複雑に影響しあって起こるものと考えられます。的確な薬を選ぶためには問診と超音波による残尿測定、おしっこの勢いを調べる検査の3つが大切です。

尿失禁

 頻尿(おしっこが近い)の延長線上に尿失禁(おしっこが漏れる)という状態があります。この尿失禁の代表的なものには

1.切迫性尿失禁(まったなし。トイレに行くまで間に合わない)
2.腹圧性尿失禁(咳やくしゃみで漏れる。ジャンプや走ることで漏れる)

のふたつがあります。ひとくちに尿失禁といっても治療法、治療に用いる薬が異なります(ふたつの要素が混じりあった混合性もあり)。

 尿失禁は誰にも相談できずに困っているひとがずいぶんいるといわれています。治りにくい方も確かにいますが、薬を飲むことによって劇的によくなり、「早く治療すればよかった」という方もたくさんおられます

 命取りになる病気ではないのですが、快適に過ごすために、いちど相談されてはいかがでしょうか。

頻尿治療薬の特徴

 (2006年の)6月に新しい頻尿の治療薬が2剤登場しました。これにより抗コリン薬と呼ばれる薬が4剤になりました。本ホームページを訪ねて下さる方の検索語にもこれらの薬の名前がたびたび登場しており、関心の高さが伺えます。

 私は決してこれらの薬(新薬)に詳しいわけではありませんが、メーカーや開発に携わった大学の先生方の話をまとめてみました。

 ベシケアは強い抗ムスカリン作用があり、膀胱に受容体のあるM3サブタイプへの選択性が強い薬である。常用量から倍量まで増やすことができる。

 デトルシトールは強い抗ムスカリン作用があり、サブタイプへの選択性は低い。M2サブタイプのある膀胱の感覚神経に抑制的に作用することが有利に働くと思われる。世界中でもっともシェアの大きい抗コリン薬であり、口内乾燥、便秘などの副作用が少ない。

 (それぞれの説明で相手の薬の批判もずいぶん聞きましたがここでは省略しております。メーカーの説明はともかく、名のある大学の先生までそうなのは少し驚きました。)

 ちょっと簡単にまとめすぎかも知れません。薬は動物実験のデータにでない「効く効かない」がありますし、ひとりひとりに「合う合わない」もあります。私も希望のある方に試してみながら、反応をみて評価していきたいと思います。

 バップフォー、ポラキスなどの従来の薬も長期処方ができる(新薬は2週間まで)、薬価がやや安い(さらに安いジェネリックもでている)などの長所もあります。

 いずれの薬も口内乾燥、便秘、排尿困難を起こす恐れはあるわけで、使用する場合は(医師も患者も)注意が必要です。

過活動膀胱

 過活動膀胱ということばはover active bladderの訳語で、おしっこをためていっている時期に(つまり普通の生活をしているときに)強い尿意を感じてトイレに駆け込まなければならなかったり、尿をもらしてしまったりする状態、病気のことです。数年前から学会では使われていましたが、ふつうの診療では使われておらず、泌尿器科以外の医師にはなじみのうすい言葉と思います。

 最近この病名が表にでてきたのは、新しく出てきた頻尿治療薬であるデトルシトールとベシケアを処方するのにこの病名が必要とされることになったからです。(この病名以外でこれらの薬を処方することは保険診療上認められないのです)

 世の中で決まったことばにけちをつけてもしかたがないのですが、私にはなんとなくこのことばがなじめません。すくなくとも診察の場で「過活動膀胱ですね」などといっても、その後の説明が大変になるだけ、という感じがします。たとえていうならインフルエンザを「流行性感冒」と言い換えるようなものでしょうか。私は「イライラ膀胱」とか「過敏膀胱」という呼び名はどうかと考えています。病気の状態をよく表している病名だと思うのですが、どうでしょうか。