風邪薬の研究

総合感冒薬「PL顆粒」について

 冬になり風邪が流行してくると泌尿器科疾患の通院のついでに、または親戚や近所の方が風邪薬を求めてこられることがあります。私も救急外来は長年やってきましたので突然の困った状態に対する対処というのはそれなりにやってきましたし、病院勤めの時にも風邪薬を求められることはままありました。しかしよくよく考えてみると風邪薬というものを特別深く考えてみたことはなかったようにも思います。

 風邪は薬で治すことはできず、薬は症状を改善して治るまで楽にするだけ、抗生物質は基本的にはつかわず、扁桃や気管支に2次感染がみられる(疑われる)時のみ使うというのは心がけてきました。また風邪ですと言われたら、熱、咳、喉の痛み、鼻水、体のだるさの有無を聞き一番の訴えを中心に処方の内容を考えるようにしていたつもりです。ただ忙しいときなど簡単であるがために風邪=PL顆粒という処方もなかったとはいえません。

 今回風邪薬を研究するにあたり、まずPL顆粒について分析してみたいと思います。PLは4つの成分からなる薬で解熱剤としてサリチル酸アミドアセトアミノフェンを含んでいます。このうちサリチル酸アミドが冬季においては問題で、小児期のインフルエンザに用いるとインフルエンザ脳症を誘発することがあり、アスピリンやバファリンと同様に小児に用いないほうが無難です。アセトアミノフェンは穏やかな解熱剤で多くの薬局で売っている風邪薬にも含まれています。

 残る二つの成分はカフェイン抗ヒスタミン剤で前者は頭のぼーっとした感じを改善したり頭痛を軽減したりし、抗ヒスタミン剤は鼻水やくしゃみを抑える働きをします。

 解熱剤には炎症を抑える働きがあり、喉の痛みには有効ともいえますが、この「総合感冒薬」には咳を止める作用はあまりなさそうです。ですから咳が激しくこれを何とかして欲しいという患者には別に鎮咳剤が必要でしょうし、もっと強力に抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤を併用して鼻水をとめようとすれば、薬が重複するのであまりよくない処方ともなりそうです。

 喉の痛みに対しロキソニンのような非ステロイド性消炎鎮痛剤を併用するのはどうなのでしょう。消炎鎮痛剤3種併用というのはそれぞれ違う薬だからよいという人もいるかも知れませんが、PLの内容をしらずにだしているだけの場合も多いのではと思います。

 PLがもっとも合う「証」(漢方的な表現ですが)は微熱があって鼻水がでていて頭が重く(あるいは痛く)咳はあまりないという風邪のような気がします。

OTC薬「パブロン」について

 OTCという言葉は私もあまりなじみのないものでしたがオーバー・ザ・カウンターという意味で薬局でカウンター越しに買うことのできる薬のことだそうです。正しい英語かどうかは知りませんが、日本語としては定着しているもののようです。

 さて、医師の処方が必要な薬とOTC薬の違いは何でしょうか。成分をみると共通するものも多いようです。ここでパブロンをとりあげたのには特に意味はありませんが、私に限らずよく耳にする風邪薬の代表としてとりあげさせていただきました(批判も推薦もするつもりはありませんのでご了承ください)。パブロンにはいろいろな種類がありますが、ここではパブロンエースをみてみます

 パブロンエースの成分には次のものがあります。イブプロフェンという消炎鎮痛剤(ブルフェンと同じ)、塩酸ブロムヘキシジンという去痰剤(ビソルボンと同じ)、リン酸ジヒドロコデインという咳止め(極少量の軽い麻薬です)、塩酸メチルエフェドリンという気管支を拡げる薬(気管を広げ咳を止める)、ノスカピンという非麻薬系鎮咳剤(咳をしずめる =咳止め)、塩化リゾチームという消炎酵素(痰や膿を分解し外に出しやすくする)、マレイン酸カルビノキサミンという抗ヒスタミン剤(くしゃみ、鼻水、鼻づまりを押さえる)、無水カフェイン(眠気をとり頭痛をやわらげる)、ビタミンB1ビタミンB2が含まれています。こう書いていくとこれだけに相当する薬を医院で処方するとものすごく多数の薬を内服しなければならないし、あらゆる症状に対処できそうで大変便利なようにも思われます。OTC薬の特徴として副作用の少ない穏やかな薬が、すこし少なめに配合されているということもあげられます。いいこと尽くめのようですが、風邪の症状にはさまざまなものがあり、苦しい症状が咳だけ、熱だけ、鼻水だけのように限定していればその症状に応じたピンポイントの治療のほうが有効ではないかとも考えられます。

 またパブロンエースは他の多くの風邪薬と違い解熱鎮痛剤としてアセトアミノフェンにかわりイブプロフェンを採用しているわけですが、その違いと副作用の違いを把握しておく必要もあります(風邪薬によってはピリン系の薬が入っているものもあります)。おそらく薬局の薬剤師さんはこのへんについては多くの医師よりも詳しく説明して下さると思いますが、自分で成分表をみながら棚を探すよりは是非症状を薬剤師さんに自分の症状をお話いただいた上、どの薬がよいかを薬剤師さんに教えてもらってはと思います。

 OTC薬では健康保険が利用できないことも考えておかねばなりませんが(初診料や処方料を考えると)、健康保険の3割負担の方で、お忙しい方、手間を省きたい方は、薬局で風邪薬を求めるのもよい選択と思います。(話は少しそれますが膀胱炎では絶対に勧められません。OTCで使用できる抗生物質と医師の処方の必要な抗生物質の間には非常に大きな効力の差があるからです)

風邪で診療所を受診するメリット

 さて、風邪で病院、診療所を受診するとどんなメリットがあるのでしょうか。最大のメリットは風邪だと思って他の熱の出る疾患を見落とさないこと、肺炎や中耳炎、腎盂腎炎や前立腺炎などに対し適切に対処できることではないかと思います。2番目としては鼻水がひどいとか、咳がひどい、とにかく体がだるいなど個別の症状に対し的確に薬を選択し投与できること、3番目には他の疾患(たとえば前立腺肥大症や緑内障など)にも考慮して副作用を考慮しつつ薬を選択してもらえること、4番目には日常生活(仕事や通学、休養など)についても適切なアドバイスがもらえること、5番目には健康保険が使えることがあげられます。

 デメリットとしては待ち時間がかかること(当院は少ないですよといいたいのですが、昨日は少し混み合っていました、すみません。今日は診察時間にこうして更新しています、朝からとてもゆったりとした水曜日です)と、インフルエンザなど他の流行性疾患をひろいやすい事などがあげられるでしょうか。

 たとえば解熱剤ですが、微熱から高熱までさまざまな状態が考えられるわけですが、年齢、体調、病気の状態を適切に勘案して解熱剤を選ぶことは簡単ではありません。咳止めや鼻水などをとめる抗ヒスタミン剤などについても同様で、作用の強いものはOTC薬には含まれてもいません。

 これらOTC薬に含まれていない薬を使えるということに加え、膨大な経験と日々の勉強(学会の学術集会への出席、学会誌の購読、インターネットなどから医者は日々勉強しているのです)をもとに医者は薬を真剣に選んでいるのです。風邪ごときに初診料、処方料を払うのは癪だと考えられる方もいらっしゃるかたもいるかも知れませんがご了承ください。

 ここまで書いてきて、風邪で診療所を受診するメリットを最大限活かすためには我々医者が更なる努力をすること、受診される方が自分の症状を(風邪です、と簡単にいわずに)細かく丁寧に説明することがかかせないな、と改めて思います。次はもう少し細かく各論について論じたいと思います。

葛根湯(かっこんとう)

 漢方薬の使用頻度は医者によりさまざまですが、当院では100種類ぐらいの内服薬の中、10剤を採用しています。いずれもが有用な薬であることが世の中に(少なくとも日本では)広く認められているもので、その中のひとつが落語にもでてくる葛根湯です。おそらくもっとも有名な漢方薬ですが、その生薬(しょうやく)の構成をすらすらいえる医者はあまりいないと思われます。(私も無理です)

 この薬は葛根(カッコン)と麻黄(マオウ)が主たる薬で、発汗作用があり、体の熱や腫れ、痛みを発散して治します。風邪の引き始めで、比較的体力のある人に向いているといわれています。風邪のひき始めで寒気がするとき、風邪による頭痛や肩こり、筋肉痛などにも有用であるようです。 他には桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、天草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)が含まれています。もともとは傷寒論という中国の古い書物に書いてある処方で、生薬を煎じてのんでいたものを飲みやすい乾燥エキス剤として使っています。

 最近、漢方薬の研究会で教えてもらった西洋薬と葛根湯の併用療法が鼻水と熱(寒気)を主とする風邪にずいぶん有効なように思って多用しています。漢方薬というと怪しげな薬と思っている方も多いかもしれませんが、西洋薬にも花粉のエキスとか植物のエキスという薬もあれば、少し前までは豚の前立腺抽出物などというのも薬として使われていました。由来をあまり気にすることはないのかもしれません。

もちろん漢方薬が苦手な方、食わず嫌いな方に押し売りするつもりはありません。選択肢を示してそれぞれの特徴を説明の上使っていくように心がけたいと思います。黙ってもらって帰って捨てないように、遠慮なく「別のがいい」とおっしゃっていただければ幸いです。

解熱剤

 総合感冒薬をみても市販のOTC薬をみても解熱剤は主要な薬として配合されています。

近年では、身体が発熱するのは合目的的な反応でありむやみに下げないほうがよい、少なくとも事前に(熱が上がる前に)解熱剤を投与しないほうがよいという考えがあります。熱で死ぬことはめったにないが、解熱剤で死ぬことや健康を害することもあるというのです。

 この議論は難しい部分があります。20数年医者をやってきてさまざまな薬の副作用もみてきましたが、解熱鎮痛剤でなくなられた方はみたことがありませんし、身近(同一病院の診療や友人医師の治療経験)でもないようです。胃を悪くしたり、長期の服用により腎臓を悪くしたりすることはときおりみられますが。

 一方、風邪ぐらいで仕事や学業が休めない人は大勢いて、その中には38℃ぐらいの熱が出るとしんどくて仕事ができない人もたくさんいます。そういう方の求めがあれば熱やしんどさの程度に応じて、まれな副作用の説明もしながら解熱剤を処方することは妥当なのではないかなと思います。

 ただ、熱のない風邪で咳や鼻水で薬をのもうという方が、解熱剤の入った総合感冒薬やOTC薬を飲むのは、少しメリットに比べてデメリットが多いのかも知れません。そういう方には咳止めや鼻水を止める抗ヒスタミン剤の方が適当なのでしょう。話は少しそれますが、OTC薬の中には頭痛、寒気用とか鼻水にとかターゲットを絞った薬もでています。これらの薬の成分がどうなっているのかが気になり調べてみましたが、なかなかおもしろい内容でした。これはまた別にまとめてみたいと思います。(簡単に考えていた風邪薬の研究もなかなか終わりそうにありません。)

 次に小児に関してですが、ジクロフェナク(ボルタレン)、ロキソプロフェン(ロキソニン)などに代表される非ステロイド性消炎鎮痛剤は、インフルエンザ感染中に用いるとインフルエンザ脳症という重篤な合併症を起こすことがあるといわれています。異論もあるようですが、現時点でわざわざ危険が疑われる薬を使うことはありません。また少し前までは使えていたメフェナム酸(ポンタール)も同様に使わなくなっているようです。信頼のおける小児科の先生にも確認してみましたが、小児にはアセトアミノフェン(アンヒバ、カロナールなど)のみを処方されているとのことでした。やはり熱の期間を少しでも快適にすごすことができるように使うものだと説明されているそうです。

1.解熱剤は苦痛をとるのに必要最小限用いる
2.まれではあるが解熱剤には副作用があることが報告されていることを承知の上で使う
3.小児にはアセトアミノフェン(カロナールなど)のみを用いる

長々と書いてきましたが以上3点が重要と思われます。

風邪薬の昼用・夜用

 薬局で売られているOTC風邪薬の中には昼用・夜用が分けてあるものがあります。これがどうなっているのか気になって薬局に出かけてみました。(不審客が気になったと思いますがスギ薬局尾西三条店の薬剤師さんスミマセンでした。ここは風邪薬の品揃えがとても多く参考になりました)

 昼用、夜用が分けてあるものは2種類あり、1種類は夕食後に服用するものから(目を醒ます作用のある)カフェインを除いてあり、もう一種類は夕食後に服用するものからカフェインを除いた上、薬の量をすべての薬効成分について半分にしてありました

 私が医院でカフェインを積極的に処方することは少なくPL顆粒を出すときぐらいでしたが、多くのOTC薬にはカフェインが含まれており、必ずしも(カフェインが有効であると記載のある)風邪による頭痛をターゲットにしているわけではなくさそうです(鼻水用、咳・痰用にも必ず入っている)。一方カフェインにはコーヒーなどでよく知られているように軽い興奮、覚醒をおこす作用があります。

 ここから先は私の想像ですが、(日本においては)風邪をひいたとき多くの人々は風邪薬に「薬をのんでしゃきっとして仕事をする」ことを求めており多くのOTC薬へのカフェインの配合はそれにこたえてのものではないかと思うのです。本来純粋に「風邪を早く治す」という観点からは、カフェイン抜きの風邪薬を出してゆっくり休んでもらうというのが正しいのかも知れませんが、私としてはこれから風邪で受診の人には質問項目を増やしてみたいと思います。結果を聞いてカフェインを入れるかどうか相談します。
あなたはこれからゆっくりやすめますか?それとも仕事や勉強にでかけますか?

症状別風邪薬の秘密

 症状別に違う構成を持つ薬で最も有名なのはベンザブロックでしょう。(よく効くという意味ではなく、大メーカーが作り、大々的に宣伝をして販売しているという意味で。)ベンザブロックには黄、銀、青の三種類がありそれぞれ「鼻から来る人に」「のどからくる人に」「熱からくる人に」とうたっています。これらの共通成分と独特の成分を見てみたいと思います。

 黄色のベンザブロックSは「3種の成分のはたらきで鼻水・鼻づまりを抑えます」とあり、三種の成分とはヨウ化イソプロパミドマレイン酸クロルフェニラミンヘスペリリジンで、この他に無水カフェインアセトアミノフェンリン酸ジヒドロコデイントラネキサム酸塩酸メチルエフェドリンを含んでいます。

 銀のベンザブロックLは「のどの痛みのことをよく考えた処方」とあり、主要な成分として塩酸プソイドエフェドリンイブプロフェンをあげ、黄色と共通の成分としてマレイン酸クロルフェニラミンリン酸ジヒドロコデインを含んでいます。

 青のベンザブロックIPは「発熱・さむけによく効く処方」とあり、主要な成分としてイブプロフェンヘスペリジンビタミンCをあげ、黄色との共通成分として無水カフェインリン酸ジヒドロコデイン塩酸メチルエフェドリンを含んでいます。

さて成分のほうから整理してみると、

  • 3種すべてに含まれているものはリン酸ジヒドロコデイン(咳止め)
  • 黄色と銀に含まれているものはマレイン酸クロルフェニラミン(抗ヒスタミン剤)
  • 銀と青に含まれているものはイブプロフェン(解熱鎮痛剤)
  • 黄色と青に含まれているものはヘスペリジン、無水カフェイン、塩酸メチルエフェドリン
  • 黄色だけに含まれているものはヨウ化イソプロパミド、アセトアミノフェン
  • 銀だけに含まれているものは塩酸プソイドエフェドリン
  • 青だけに含まれているものは、なんとビタミンCなのです!

 まずはそれぞれの独自成分に着目してみます。我々(臨床医にとって)あまり聞きなれないヨウ化イソプロパミドですが、調べてみるとこれは抗コリン薬でした。以前鼻水を止めるのに大変有効であったダンリッチという薬にも含まれていた成分です。おそらく鼻水を止めるのにはかなり有効なのでしょうが、この薬(ダンリッチ)は同時に尿閉(おしっこがでなくなる)を起こすことでも有名な薬でした。緑内障や高度な前立腺肥大症の方には問題があるかもしれません。

 アセトアミノフェンに関しては穏やかな下熱鎮痛剤としてイブプロフェンの代わりに入っているだけで、特別鼻水、鼻づまりに効くというわけではないでしょう。

 銀だけにはいっている塩酸プソイドエフェドリンが塩酸メチルエフェドリンに比べてどのように作用が違うかはわかりませんが、エフェドリンの作用を考えるとのどの痛みに特別効くというわけではなさそうに思えます。

 まして、青だけに入っているビタミンCは???です。発熱などで風邪のときに消耗しがちなビタミンCを配合、とありますがそれで発熱、さむけによく効くといえるのでしょうか。

 今回の研究では症状別に薬を使い分けるのにOTC薬の成分構成を参考にしよう(真似しよう?)と思ったのですが、どうも(全体として)大きな違いがないように思われるのです。

 いちど配合を考えた方に聞いてみたい気もします。風邪薬に詳しい方がおられましたら教えていただけましたら幸いです。(できましたら武田の開発もしくは広報の方からのおたよりをお待ちしています)